Research
超伝導量子ビットの量子状態制御
量子力学は現代の物理学の根幹をなすものです。
しかし私たちの日常生活において量子力学的な効果を目の当たりにすることはまずありません。同様に,トランジスタの中の個々の電子の運動は量子力学なしでは説明できないにもかかわらず,通常電気回路の動作の記述に量子力学は必要とされません。
ところが超伝導体で構成された電気回路上では電気抵抗がないためにエネルギー散逸が小さく,量子性がよく保たれます。うまく設計し,熱揺らぎの少ない極低温環境下で動作させると,チップ上のマイクロメートルから時にはミリメートルスケールの超伝導回路が巨視的な人工量子力学系として振る舞います。ジョセフソン効果を利用した超伝導量子回路では,有効的な量子2準位系すなわち量子ビットが実現し,この量子状態をマイクロ波帯の電気信号で任意の状態に制御し観測することが可能です。
人工原子としての超伝導量子ビットはその巨視的な大きさゆえに巨大な電気的あるいは磁気的双極子モーメントを持ち,電磁場と強く結合します。特に超伝導共振回路や超伝導伝送線路などの空間的に閉じ込められた電磁場のモードと結合させることで,電磁場モードの零点振動と人工原子の相互作用の効果が如実に現れてきます。これらを舞台とした、マイクロ波のエネルギー領域における量子光学の研究を進めています。
超伝導量子ビットは量子コンピュータ実現に向けて,量子情報処理を行うための基本素子として注目されています。その特性改善,制御・観測技術の向上,集積化へ向けた取り組みも行っています。
ハイブリッド量子系
これまでの研究で,超伝導量子回路の量子状態の制御・観測を高精度に行うことができるようになってきました。また複数の量子ビットや共振器の関与する複雑な量子状態の制御も可能になっています。
今度はこれをツールとして用い,他の物理系の量子状態を自在に制御することに取り組んでいます。超伝導量子回路と他の物理系の間で量子状態を転写することで,それぞれの物理系の特徴を活かし,量子情報をより長い時間蓄えることのできる量子メモリや,量子情報通信のための光インターフェイスを実現することを目指します。
対象とする具体的な量子系として、ナノメカニクス素子の固有振動モード、強磁性体中のマグノンモードなどを用いた試みを行っています。超伝導量子回路上のマイクロ波との結合、あるいはレーザー光との結合により、これらの量子力学的自由度の冷却や状態制御・観測に挑戦しています。